現在、スペイン某所にいる。
未だゴールデンウィークの海外旅行を引きずってダラダラしている…
などと言ってみたいところだけれど、生憎の仕事の都合、急遽の滞在である。
近頃は現場に出て走り回ったりするより、事務所のイスに座って、お絵かき(一応、デザインや製図)したり、屁理屈(いわゆるコンセプトってぇやつの計画)をコネくり回したり、そしてその合間に居眠りしていることが多い。
キャリアといえば格好もよろしいが、つまりは何となくそうなっちまって四半世紀を超えて現在に至る自動車開発業、レーシングカートでトロトロやっている頃のタイヤだオイルだのに始まり、いよいよ本番が近づいてきている、おフランスの片田舎で行われる24時間を走り通す酔狂レースについては、1000馬力を超える化け物マシン開発の人柱から末席を汚し始めているのにも係わらず、今年は出場するクルマの開発にすら呼んでもらえなかった。
もしかしたらそろそろ現場では、「オッサンに相談したら、アーだコーだとウルセェーからよ」なんて、いつか自分が叩いていた陰口を、叩かれる番になっていて、煙たがれもしているのかもしれねーなぁ。
…などと、ウダウダと考えているところで、唐突に電話が入った。
「困ってるンだよ」
「何があった?」
「振動が止まンない」
「いつから」
「サルテ(おフランスの片田舎)で走るのに弄った途端、収まらなくなった」
「ドライバーはどう言ってる?」
「酔いそうだと言ってる」
「との辺まで手を入れた?」
「エンジン、サスペンション、とりあえず応急処置だけどマウントというマウントに緩衝材を噛ました」
「それでも止まらない?」
「ダメ」
「……」
「悪いけど、時間があったら、ちょっと来てくンない?」
「ちょっと」といっても、まず飛行機に乗って、空港からレンタカー飛ばしてと、何だかんだと丸一日はかかるのだけれど、昔から「じゃぁ、ちょぃと美味いもんでも食って一眠りしててよ、すぐに行くから」なんて答えてホイホイ出かけてきているものだから、アッチももうあまり気を遣わなくなっていて…
そういう訳で、おフランスの片田舎で1ヶ月ほど後に開催される24時間を走り通す酔狂レースの出すクルマに手を入れるために、スペインの某サーキットの近所のホテルで、これを打ち込んでいるという訳である。
サーキットのスケジュールもあるので、この3日でカタをつけねばならず…
誠に、因果な商売である。
今回の当方の仕事は、24時間レースに臨むマシンの振動を抑えることと……
事務所の社員たち及びワン公たちが大好きな、ハムとチーズを買ってくることである。(苦笑)
それにしても不思議なことに、クルマに限らず機械というやつは往々にして、慎重に設計して何度も確かめながら組み立てても、機械自体の動作としては問題はないものの、使ううえで不快極まりない、原因不明の振動などの現象を起こすことが多い。
そしてそれは、どうしても原因が掴めない、原因の解明にも繋がらない、妙ちくりんな方法によって呆気なく解決してしまうことも少なくないから、尚更、摩訶不思議なんだな。
例えば個人的な経験では、今回と同じく振動に関してなら、過去、こんなことがあった。
エンジンの振動から共振が起きているのは判ったものの、エンジンを載せているシャシー部分、サスペンション、ドアやフード、のみならずウィンドウにおいても、その取り付け部分などに、とにかく共振を起こすと考えられるところ悉くに樹脂ゴムなどの緩衝材、および緩衝性能のある充填材などをブチこんだのだけれど、殆ど効果がなかった。
となればエンジンを弄るしかないかと、エンジン自体の振動を少なくしようと弄くってるうちに、シリンダー内でピストンによって圧力をかけた混合気を燃焼させるためのプラグがスパークするタイミングを間違って遅らせて設定してしまった。
すると、不快な振動が途端、消えてしまった。それどころか、エンジンの最高回転数が2000rpmほど上がり、燃費も僅かながら上るということがあった。
いや、振動は消えた訳ではなかった。測定器による振動および共振の係数は殆ど変わりなかったんだよ。
そして、何より、これはどういうエンジンにも適応するという訳ではないのだけれと、点火タイミングを遅らせてエンジンの回転数が上ったうえで燃費も向上するなど、理論的には未だに解明できていない…。
こんなことが本当に多いんだよ。
これが、ハイブリッドカー、またはEVカーとなると、エンジンの振動が少ない、もしくはエンジンという振動物を載せないことから、イヤな振動を消すのと逆の発想で共振させて誤魔化すなんてこともできなくなるし、果たして、どこまでを振動とすればいいか、そして、どこまでをドライバーが路面状況などを得る為の情報とすればいいか、そしてそして、不快な振動と小気味良い振動など、その境を見極める判断も着け難くなるから…
益々ヤヤこしくなる。
果たして技術の進歩というものには、とりわけ自動車のように人間が直に触れる道具となると、一頃、ファジーなんて言葉も流行ったものだけれど、必ず曖昧というか、面妖というか、結構、気分次第のイー加減な面も考慮せねばならないのが現実であり、真実なんだな。
だから、尚更、これは自動車に限ったことではないけれど、道具というものをして人間がそれをどう考えているか、そして、如何にして使うべきかと考えているかが大事になってくるんだけど…
少なくとも一般のドライバーの方々には、クルマなんものは時速5キロで走っていても、人を殺めることができるものであるという認識を持っていて欲しい。忘れないで欲しい。
アイサイトだの、シティ・セーフティなんて、衝突回避支援システムもあるけれど、あくまで"支援"的機能しかしてくれないからね、というか、"支援"しかできないものだからね。
Kenny Loggins & Michael McDonald-This is it.






